臨床高濃度水素水飲用試験報告書(2)※一部省略REPORT

(本臨床研究実施者)特定非営利活動法人 日本医科学研究所
2015年10月26日 (作成者)松田秀則 医師

高濃度水素水摂取によるメタボリズム改善および
脂質代謝改善における影響についての考察(メタボ群)

I:目的

本臨床研究(以下、本試験という)は、「メタボリック症候群あるいは脂質代謝異常を有する成人」を対象とし、高濃度水素水(以下、水素水という)継続摂取が、メタボリズム改善および脂質代謝改善に与える影響を明らかにすることを目的とした。

II:試験方法

1.対象

試験対象は、20 歳以上 70歳未満で、体脂肪率が30%以上あるいはウエストサイズが85cm以上の、いずれかまたは両方を満たす者とした(性別は問わない)。
本試験での対象除外基準は、表1に該当する場合とした。

表1

2.試験使用飲料水

本試験で使用する飲料水は、アルミパウチ内に充填された水素水300mlとした。
試験飲料水100mlあたりの栄養組成を表2に示す。

表2

3.試験方法

①試験期間:2015年5月8日~9月24日の間の12週間とした。
②試験デザイン:特定被験者を対象として行う前後比較試験とした。
③登録方式
本試験の対象基準を満たす者で、本試験の試験計画書、摂食要件と摂食日記を付けることに同意する22名を選定し、水素水を摂取させた。
④水素水投与方法、投与量、投与期間
朝・昼・夕食前を目安に、1パック300mLずつ(1日3パック、合計900mL)を摂取することとした。試験期間中は、摂取量と時間を記録させた。ただし、一度で300mLを飲めない場合は、摂取時間・量を日誌に記入することとした。温めたり、お茶やコーヒーで抽出したりせず、開封して30分以内にそのまま飲み口から飲用することとした。
飲用摂取期間は12週間とし、生活日誌への記録(健康問診)を併せて依頼した。記載項目は表3に示す。

表3

⑤検査内容および検査スケジュール(表4)
スクリーニング時(試験開始時)と試験開始12週間後の2回、バイタルおよび体型変化計測として、身長(自己申告)、体重、ウエストサイズ、体温(腋窩体温)、血圧(収縮期/拡張期)を測定し、身長と体重よりBMIを算出した。血液検査で、血糖、HbA1c、総コレステロール(T-Cho)、LDL、HDL、トリグリセリド(TG)、総タンパク、アルブミン、GOT、GPT、γ-GTP、ビリルビン値、電解質(Na:ナトリウム、Cl:塩素、K:カリウム)、尿素窒素、クレアチニン、尿酸値を測定した。
検査に先立ち、被験者への注意事項として、検査前日は禁酒とし、21 時までに夕食を済ませ、その後は検査終了時まで絶食(水のみ可)とした。

表4

⑥MRI撮影
3名の被験者について、スクリーニング時と水素水摂取12週後で、腹部MRI撮影をおこない腹部内臓脂肪量を比較した。
⑦計測結果統計処理
スクリーニング時と試験開始12週間後で、測定結果および健康問診結果を集計した。各項目について、T検定及び相関解析を行い、有意差を検討した。この際、有意水準P<0.05を統計学的に有意とみなした。

III:結果

試験登録者は、総数22名であった。全ての計測、検査が完了できなかった2名および試験継続辞退者1名を本試験から除外した。最終的に、12週まで試験を完了できたのは19名であり、この19名について結果の検討を行った。

(バイタルおよび体型計測結果)(表5)
スクリーニング時と試験開始12週後の計測において、血圧、体温、体重、BMI、体脂肪、ウエストサイズに有意差は見られなかった。しかし、12週後の収縮期血圧、拡張期血圧、体脂肪率、ウエストサイズについて、スクリーニング時との比較で低下傾向が見られた。

表5

(血液検査結果)
すべての検査値において、スクリーニング時と試験開始12週間後で有意差は見られなかった、しかし、中性脂肪、Kについては、12週後で低下する傾向が見られた。また、Na、尿酸は12週で上昇する傾向がみられた。血液検査結果のまとめを表6に示す。

表6

(健康問診結果)
試験を終了した19名のうち、14名について健康問診結果を得ることができた。結果は、水素水摂取12週間後で、スクリーニング時と比較し、疲労感、睡眠状態、寝つきの改善傾向が見られた(図1参照)。

図1

(MRI撮影結果)
スクリーニング時のMRI撮影(T2強調画像)で、脂肪肝を指摘されていた被験者の水素水摂取12週間後において、腹部内臓脂肪量が減少していた(図2)。他の2名については大きな変化は見られなかった。

図2

Ⅳ:考察

水素分子(以下、H2という)はこれまで、生体内でなんら反応することのない不活ガスと考えられていた。しかし、種々の抗老化物質や抗酸化物質の発見、開発に伴い、H2が毒性の高い活性酸素種/ラジカルを選択的に還元する抗酸化物質であり、酸化ストレスから細胞を防御する効果を有することが示された1)。H2は、抗がん剤副作用軽減効果、認知症改善効果、動脈硬化抑制効果、脂質代謝改善効果なども有しているとされ(2)、最近では、婦人科領域、神経内科領域から、H2の抗炎症効果を期待した報告が散見される(3)(4)。臨床的にH2を最も簡単に投与する方法は、H2を高濃度に溶解した水(水素水)を飲用摂取することである。摂取したH2は体内に取り込まれ、大半は呼気ガスとして体外に排出されるものの、H2の拡散速度は非常に早く、高分子間を通り抜け、細孔、薄膜等を容易に透過する。また生体内では、水溶性、脂溶性を問わず拡散することから、あらゆる臓器とそれを構成する細胞内まで素早く到達できるとされている(1)。
本試験では、水素水摂取がメタボリック症候群あるいは脂質代謝異常をきたしている成人で、どのような効果があるのかを検討した。その結果、バイタルや体型計測上、水素水摂取12週後で有意差はないものの、動脈硬化の指標とされる拡張期血圧が低下傾向を示し、体脂肪率、ウエストサイズなど脂質代謝異常の指標も低下傾向となった。さらにMRI撮影でも、腹部内臓脂肪量が水素水摂取により減少していることが確認できた。これらの結果は、H2が脂質代謝改善効果および動脈硬化改善効果を有する可能性について言及した報告と一致している(2)。
血液検査では、試験開始12週間後で、スクリーニング時と比較し、検査結果に有意な改善は見られなかったが、食事の影響はあるものの、中性脂肪など、メタボリック症候群に関連する検査値で低下傾向が見られた。また、本試験では、糖代謝異常の指標であるHbA1cが7.0mg/dLから6.4 mg/dLへ、12週間の水素水摂取で低下した例があった。これは、Kajiyamaら(5)が、水素水を糖尿病患者に1日900mL、8週間連続投与した結果、水素水がインスリン抵抗性関連疾患の発症予防および進展を抑制する可能性があったとする報告と一致している。さらに、ブドウ糖は、インスリンによりKと併せて細胞内に取り込まれることから、本試験でK値が低下したことも、糖代謝異常改善と関係している可能性もある。
本試験の健康問診結果では、12週間の水素水摂取で、これまで報告されていない、疲労感、睡眠、寝つきなど神経系異常の改善傾向が見られた。Nakaoら(6)は、水に金属マグネシウムを投入し、H2を発生させ、メタボリック症候群予備群を被験者として行った臨床研究で、尿中SOD活性増加とチオバルビツール酸反応性物質(TBARS)が低下することで、酸化ストレスが抑制されたとしている。また、Fujitaら(7)はラットへの水素水投与により、ドパミン作動性神経細胞死と行動異常が抑制されたとしており、水素水は、様々な神経系異常の改善効果を有している可能性がある。これまで、酸化ストレスは多くの生活習慣病や老年病の原因であることが明らかにされており、今回の疲労感、睡眠状態の改善についても、ホルモンバランスあるいは自律神経バランスが、12週間の水素水摂取で整ったことによる可能性がある。
水素水は、副作用がない効果的な抗酸化物質である。健常者の摂取でも、その安全性は確認されており、長期間摂取することで、さらに脂質代謝改善を含め酸化ストレスによる体の障害を改善できる可能性がある(報告書(1)参照)。水素水摂取は、日常生活で感じる体調不良改善に役立つだけでなく、これまでの報告と同様、動脈硬化、糖尿病、悪性腫瘍など生活習慣病の発症予防や症状改善に寄与する可能性があると考える。

Ⅴ:結論

水素水継続摂取により、体調改善だけでなく脂質代謝異常、糖代謝異常を改善し得る印象であった。
今後は、水素水長期飲用症例での生活習慣病予防における有用性について検討を行う必要がある。

Ⅵ:引用文献

Ohsawa I, Ishikawa M, Takahashi K, Watanabe M, Nishimaki K,
Yamagata K,Katsura K, Katayama Y, Asoh S, Ohta S. Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals. Nat Med. 2007Jun;13(6):688-94.
Ohta S. Recent progress toward hydrogen medicine: potential of molecular hydrogen for preventive and therapeutic applications. Curr Pharm Des.2011;17(22):2241-52.
Hattori Y, Kotani T, Tsuda H, Mano Y, Tu L, Li H, Hirako S, Ushida T,
Imai K, Nakano T, Sato Y, Miki R, Sumigama S, Iwase A, Toyokuni S, Kikkawa F. Maternal molecular hydrogen treatment attenuates lipopolysaccharide-induced rat fetal lung injury. Free Radic Res. 2015
Aug;49(8):1026-37.
Fu Y, Ito M, Fujita Y, Ito M, Ichihara M, Masuda A, Suzuki Y, Maesawa S, Kajita Y, Hirayama M, Ohsawa I, Ohta S, Ohno K. Molecular hydrogen is protective against 6-hydroxydopamine-induced nigrostriatal degeneration in a rat model of Parkinson’s disease. Neurosci Lett. 2009 Apr 3;453(2):81-5.
Kajiyama S, Hasegawa G, Asano M, Hosoda H, Fukui M, Nakamura N,
Kitawaki J, Imai S, Nakano K, Ohta M, Adachi T, Obayashi H, Yoshikawa T. Supplementation of hydrogen-rich water improves lipid and glucose metabolism in patients with type 2 diabetes or impaired glucose tolerance. Nutr Res. 2008 Mar;28(3):137-43.
Nakao A, Kaczorowski DJ, Wang Y, Cardinal JS, Buchholz BM, Sugimoto
R, Tobita K, Lee S, Toyoda Y, Billiar TR, McCurry KR. Amelioration of rat cardiac cold ischemia/reperfusion injury with inhaled hydrogen or carbon monoxide, or both. J Heart Lung Transplant. 2010 May;29(5):544-53.
Fujita K, Seike T, Yutsudo N, Ohno M, Yamada H, Yamaguchi H, Sakumi K, Yamakawa Y, Kido MA, Takaki A, Katafuchi T, Tanaka Y, Nakabeppu Y, Noda M.
Hydrogen in drinking water reduces dopaminergic neuronal loss in the 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine mouse model of
Parkinson’s disease. PLoS One. 2009 Sep 30;4(9):e7247.